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千葉地方裁判所 昭和60年(行ウ)7号 判決

千葉県柏市松葉町6丁目34番地の1

原告

中村忠

右訴訟代理人弁護士

井上猛

右同

神山啓史

千葉県柏市あけぼの2丁目1番30号

被告

柏税務署長

右指定代理人

細田美和子

外6名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和57年度分所得税について,被告が昭和58年10月31日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し,被告が昭和59年7月12日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分によって取り消された部分を除く。)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は会社員であるが,昭和57年分の所得税の確定申告書に,次の表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告し,その後昭和58年6月20日に,次の表の「修正申告」欄のとおり記載して修正申告をした。

項目

確定申告(円)

修正申告(円)

総所得金額

4,098,470

4,098,470

分離長期譲渡所得の金額

0

0

納付すべき税額

△82,700

106,000

2  これに対し,被告は,昭和58年6月29日付けで過少申告加算税の額を9,400円とする賦課決定処分をし,次いで昭和58年10月31日付けで次の表のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をした。

項目

金額(円)

総所得金額

4,098,470

更正処分

分離長期譲渡所得の金額

19,800,757

納付すべき税額

4,066,000

賦課決定処分

過少申告加算税の額

198,000

3  原告は右処分を不服として,昭和58年11月11日に異議申立てをしたところ,被告は,昭和59年2月1日付けで棄却の異議決定をした。

4  原告は,異議棄却決定を経た後,原処分について昭和59年2月21日に審査請求をしたところ,昭和60年5月4日付けで棄却の裁決がなされ,右裁決書は昭和60年6月5日原告に送達された。

5  被告は,昭和59年7月12日付けで次の表のとおり,総所得金額及び納付すべき税額の一部を減額する更正処分及び過少申告加算税の額の一部を取消す処分をした。

項目

金額(円)

総所得金額

3,352,275

更正処分

分離長期譲渡所得の金額

19,800,757

納付すべき税額

3,932,900

賦課決定処分

過少申告加算税の額

191,000

6  右の昭和58年10月31日付け更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し,被告が昭和59年7月12日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分によって取り消された部分を除く)は,次のとおり違法であるから,その全部を取消すべきである。

すなわち,

(一) 原告は,その所有する横浜市戸塚区上郷町字亀井1901番地の2所在の家屋延面積77.14m2(以下「本件家屋」という。)及びその敷地(宅地126.31m2)(以下「本件土地」といい,本件家屋と一括して「本件資産」という。)を昭和57年3月21日付け売買契約により密田良弘ほか1名に代金24,900,000円で譲渡し,その長期譲渡所得金額について,租税特別措置法第35条1項(昭和58年法律第11号改正前のもの,以下同じ。)(居住用財産の譲渡所得の特別控除)(以下「措置法35条1項」という。)の規定による特別控除の額を控除して課税長期譲渡所得の金額を零円として申告したところ,被告は,本件家屋は原告が居住の用に供していた家屋ではなく,上記譲渡は同項に規定する譲渡に当たらないとして,譲渡所得の金額を更正した。

(二) しかしながら,本件資産は,原告がその居住の用に供していた家屋及びその敷地であるから,本件資産の譲渡に係る課税長期譲渡所得の金額の計算においては,措置法35条1項の規定による特別控除をすべきである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の事実は認める。

2  請求原因6の事実のうち,冒頭部分は争う。同6の事実のうち(一)は認め,(二)は否認ないし争う。

三  被告の主張

被告は,原告の昭和57年分所得税の昭和58年10月31日付け更正処分(ただし,昭和59年7月12日付け再更正処分による一部取消後のものをいい,以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,昭和59年7月12日付け変更決定処分による一部取消後のものをいい,以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)の適法性について次のとおり主張する。

1  本件更正処分の根拠及び適法性

(一) 本件更正処分の根拠について

被告が本訴において主張する原告の昭和57年分の所得金額及びその内容は以下のとおりである。

(1) 総所得金額 3,352,275円

右金額は,所得税法69条(損益通算)の規定に基づき,給与所得の金額4,605,674円から不動産所得に係る損失の金額1,253,399円を控除した後の金額であり,同金額は原告の更正の請求に基づきなした昭和59年7月12日付け再更正処分の額と同額である。

(2) 分離課税の長期譲渡所得金額 19,827,157円

右金額の計算の内訳は次表のとおりである。

順号

項目

金額(円)

摘要

収入金額

24,900,000

取得費

3,245,843

譲渡費用

827,000

特別控除

1,000,000

長期譲渡所得金額

19,827,157

①-(②+③+④)

右各項目の内容は次のとおりである。

(ア) 収入金額 24,900,000円

右金額は,原告が,昭和57年3月21日,本件資産を訴外密田良弘ほか一名に譲渡したことによる譲渡代金の額である。

(イ) 取得費 3,245,843円

右金額は,本件資産の取得費であり,その内容は次のとおりである。

(a) 本件土地の取得費1,263,043円

右金額は,原告が,昭和43年7月24日,横浜市戸塚区上郷町字亀井1901番2の宅地225.48m2(本件土地と同所同番24((99.17m2))とに分筆する前の土地。)を訴外社団法人神奈川県労働者住宅協会から取得した際に支払った購入代金2,254,700円のうち,本件土地に係るものとして次の算式により計算した金額である。

(購入代金の総額)

2,254,700円×126.31m2(本件土地の面積)/225.48m2(総面積)=1,263,043円

(b) 本件家屋の取得費1,982,800円

右金額は,後記①本件家屋の建築費の金額4,000,000円から,同②減価の額2,017,200円を控除した金額である。

① 建築費 4,000,000円

右金額は,原告が,昭和45年7月15日,本件家屋を建築するために湘南住宅株式会社に支払った建築代金の額であり,原告の昭和57年分の所得税の確定申告書添付の「譲渡内容についてのお尋ね」に記載された建物購入(建築)代金の額と同額である。

② 減価の額 2,017,200円

建物は時の経過により減価する資産であるため,その譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は,建物の取得に要した金額の合計額から,その減価の額を控除することとされている(所得税法38条2項)。

本件家屋は,軽量鉄骨造で,昭和45年7月15日に新築され,昭和47年10月15日から同56年11月15日まで貸付けの用に供されていたから,金属造建物(骨格材の肉厚3mm以下・住宅用)の耐用年数20年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令((昭和40年3月31日大蔵省令第15号))別表1参照)を基にして別紙1「減価の額の計算明細書」のとおり減価の額を算出した。

(ウ) 譲渡費用 827,000円

右金額は,原告が本件資産を前記密田良弘外1名に譲渡するに当たり,仲介者有楽土地株式会社に支払った仲介手数料807,000円と印紙代20,000円との合計額であり,原告の昭和57年分の所得税の確定申告書添付の「譲渡内容についてのお尋ね」に記載された,譲渡費用の額と同額である。

(エ) 特別控除額 1,000,000円

右金額は,租税特別措置法(以下「措置法」という。)31条3項の規定により,分離長期譲渡所得の金額の計算上控除される特別控除額である。

(二) 本件更正処分の適法性について

前記(一)で述べたとおり,本訴において被告が主張する原告の昭和57年分の総所得金額は3,352,275円であり,また分離課税の長期譲渡所金額は19,827,157円であるところ,被告が本件更正処分において認定した総所得金額は3,352,275円,また,分離課税の長期譲渡所得金額は19,800,757円であり,右金額は,いずれも本訴における被告主張額の範囲内であるから本件更正処分は適法である。

(三) 居住用財産の譲渡所得の特別控除について

(1) 措置法35条1項にいう個人が「居住の用に供している家屋」とは,その譲渡の時期若しくはこれに近接する時期まで,真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋をいうと解するのが相当であるところ,本件家屋は昭和47年10月から譲渡の日の直前である昭和56年11月までの間の約9年間賃貸され,原告の居住の用に供されていなかったのであるから本件家屋が右にいうある程度の期間継続して生活の本拠としていた家屋と言えないことは明らかであり,右の一事をもってしても本件家屋は同条を適用すべき「居住の用に供している家屋」には当たらないものというべきである。

(2) もっとも本件家屋が真に原告の居住に供されている家屋に該当するならば,その居住期間の長短を問わないのはもちろんである。しかし,殊更,措置法35条1項の適用を受ける目的のため,あるいはその居住の用に供する家屋の新築期間中の仮住いのためなど一時的な目的で短期間臨時に居住する家屋や主として趣味,娯楽又は,保養の用に供する目的で所有する家屋はこれに当たらないものと解すべきである。そこで原告の場合,以下に述べるように原告が本件資産を譲渡するに至るまでの経緯及び後記(4)の諸事実を総合して考えると原告の本件家屋における居住の状況は,原告は昭和56年12月11日から本件家屋に居住したと主張するが,実際は同年12月ごろから翌57年2月末ころまでの間においては原告が本件家屋に居住したものは認められず,わずかに昭和57年3月以降同年6月ころまでの間,原告が本件家屋を利用していたことが窺われるのみである。そうすると原告が本件家屋を利用し始めたのは本件資産を確定的に売却することとした後の昭和57年3月ころからであり,明らかに措置法35条1項の適用を受ける目的のみをもって本件家屋を原告の居住の用に供しているかのような外形を整えるためになされた一時的なものと言わざるを得ないから,いずれにしても本件家屋は措置法35条1項の「居住の用に供している家屋」に当たらないと言うべきである。

(3) 住居移転の経緯

(ア) 本件家屋は,昭和47年10月から譲渡のわずか数か月前である昭和56年11月15日ころまでの間,冷水宣夫(以下「冷水」という。)に賃貸されていた。

(イ) 原告は,本件家屋のほかに,昭和54年6月ころ取得した横浜市戸塚区平戸町484番地41所在の土地・建物(以下「平戸町住宅」という。)を所有していた。

(ウ) 原告は,昭和56年3月30日,日本住宅公団から千葉県柏市松葉町6丁目34番の1所在の宅地263.67m2(以下「柏市土地」という。)を取得したが,同土地の取得に際しては「当該契約の日から3年以内に当該土地上に住宅1戸を建築し,かつ,住宅の建築を完了した後,継続して自ら住宅に居住するものとする。」との条件が付されていた。

(エ) そこで,原告は,右柏市土地上に住宅を建築する資金の必要上等から,まず平戸町住宅を売却しようと企図し,有楽土地株式会社横浜店(以下「有楽土地」という。)に売買の仲介を依頼した。これを受けて同社は住宅情報誌や新聞折込みのチラシに「即引渡し」の条件で売買広告を出すなどしたが,原告の売却希望価額が高額であったこと等もあって,なかなか買手がつかなかった。

(オ) このような状況から,原告は,冷水に賃貸中であった本件資産を売りに出すことをも考え,昭和56年秋ごろから度々有楽土地を訪れ,本件資産の売却の相談をし,かつ,一方では平戸町住宅の賃貸を企図し,遅くとも昭和57年1月18日ころまでにはこれをモービル石油株式会社鶴見油槽所(以下「モービル石油」という。)の借上げ社宅として賃貸することとし,同月30日ころにはモービル石油との間で賃貸借契約を締結した。

(カ) 原告は右平戸町住宅の賃貸借契約を締結した直後の昭和57年2月7日,有楽土地との間において有楽土地を仲介者として本件資産を斡旋売買する委任契約を正式に取り結び,右委任を受けた有楽土地の仲介によって同年3月21日原告及び訴外密田良弘ほか1名との間の本件資産の売買契約が成立した。

(キ) 原告は措置法35条の制度の存在については過去の経験からこれをよく知っており,要件に該当しさえすれば最高30,000,000万円までの特別控除が受けられることを熟知していた。

すなわち,原告は,昭和48年6月ごろから昭和50年6月ころまでの間,愛知県半田市所在の原告の勤務先日本ペイント株式会社(以下「日本ペイント」という。)の関連会社へ出向したが,その間の昭和49年7月から同50年1月にかけて原告は同県知多市つつじが丘4-16-5に土地建物を取得し居住したが帰京後の昭和53年6月ころこれを28,000,000円売却し,これによって約10,000,000余円の譲渡所得を得たが,原告は右譲渡所得について昭和53年分確定申告に当たり措置法35条の規定を適用し,10,000,000余円の特別控除の適用を受けているのである。

(4) 原告の本件家屋についての居住の態様等

(ア) 原告は,日本ペイントに対し,所得税法194条に基づいて昭和57年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しているが,同申告書に記載された住所地は,平戸町住宅地の所在である。

同申告書は,その年の最初に給与等の支払いを受ける日の前日までに提出することが法定されている。当時,日本ペイントの給与支給日は毎月25日とされていたから,同申告書は昭和57年1月1日から同月24日までの間に提出されたものと認められるが,原告主張によれば,その期間において原告は既に本件家屋に居住していたはずであり,右事実は原告主張と齟齬をきたしている。

(イ) 原告は昭和57年1月18日ころには平戸町住宅をモービル石油に賃貸することとし,同月30日ころには同社との間で賃貸借契約を締結しているが,同契約書の記載によると,原告はその住所を杉並区高円寺北4-20-5(同所は,原告の妻の父小川政次郎の居住するアパートで後に述べる「高円寺北アパート」の所在地である。)と記載している。

(ウ) 原告は日本ペイントに対して,原告が平戸町住宅から本件家屋へ「転居」したことを理由として「通勤定期変更届」を提出しているが,右届書に記載された「(変更)年月日」は昭和57年2月1日とされている。

(エ) 原告は先に述べたように,本件資産の売買につき有楽土地との間で斡旋売買委託契約を締結しているが,同委任状に原告は「主連絡先」として東京都杉並区高円寺北4丁目20番5号小川方のアパート(以下「高円寺北アパート」という。)の電話番号を記載している。

(オ) 原告が本件家屋の電気の使用契約者となった時期は昭和57年3月21日である。

(カ) 原告が本件家屋の水道の使用契約者となった時期は昭和57年2月6日である。

(キ) 原告とモービル石油との平戸町住宅の賃貸借契約書には特約事項(第19条)として「二階西側和室の1室に一時貸主の荷物を保管することを承諾する。」旨の取決めがなされているが,原告の主張するように平戸町住宅の賃貸借契約締結前の昭和56年12月中旬より本件家屋を生活の本拠としていたとするなら,平戸町住宅の賃貸にあたって殊更,特約条項をもうける必要性は全くなかったはずである。

(ク) 原告は本件家屋に電話を架設していなかった。

2  本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性

被告は,本件更正処分により,原告が新たに納付すべきこととなった税額(更正による増加額)3,826,900円の全額を国税通則法65条1項の規定に基づき,過少申告加算税の計算の基礎となる税額(ただし,同法118条3項の規定により右金額の10,000円未満の端数を切捨てた金額3,820,000円)とし,これに100分の5の割合を乗じて過少申告加算税191,000円を算出し,これを賦課決定したものであり,原告が右税額の計算の基礎となった所得金額を過少に申告したことについて同法65条4項に規定する正当な理由があったとは認められないから,本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張の1の(一)の事実のうち,(1)は知らない。同1の(一)の(2)のうち,(ア)は認め,同(イ)のうち(a)は知らず,同(b)のうち①は認め,②の後段は知らない。同(ウ)は認め,同(エ)は知らない。

2  被告の主張の1の(二)の事実は争う。

3  被告の主張の1の(三)の事実のうち(1)は,本件家屋が昭和47年10月から昭和56年11月まで賃貸されていたことは認め,その余は否認ないし争う。同(2)は否認ないし争う。

4  被告の主張の1の(三)の(3)の事実について

(一) (ア)ないし(エ)は認める。

(二) (オ)は否認する。モービル石油との賃貸借契約を締結したのは昭和57年2月14日であり,契約書の日付けを昭和57年1月付けとしたのは家賃の支払いを2月分からとするためである。

(三) (カ)のうち,昭和57年2月7日,有楽土地との間において同社を仲介者として本件資産を斡旋売買する委任契約を取り結び,右委任契約を受けた有楽土地の仲介によって同年3月21日,原告及び密田良弘ほか1名との間の本件資産の売買契約が成立したことは認め,その余は否認する。

(四) (キ)のうち,原告は措置法35条の制度の存在については過去の経験からこれをよく知っており,要件に該当しさえすれば最高30,000,000円までの特別控除が受けられることを熟知していたことは否認し,その余は認める。

5  被告の主張の1の(三)の(4)の事実について

(一) (ア)のうち,原告が昭和57年分の「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していること及び,同申告書に記載された住所地が平戸町住宅の所在地であることは認め,同申告書がその年の最初に給与等の支払いを受ける日の前日までに提出することが法定されていることは知らず,その余は否認する。「給与所得者の扶養控除等申告書」を会社に提出する期限は毎年12月10日までであり,原告は同日以前は引っ越していないのであるから,右申告書に記載された住所が本件家屋になっていないのは当然である。

(二) (イ)のうち,賃貸借契約書の原告の住所が杉並区高円寺北4-20-5と記載されていることは認め,その余は否認する。

(三) (ウ)は認める。ただし,これは,本件家屋から勤務先までの通勤方法が3通りあり(①本件家屋→徒歩またはバス→根岸線港南台駅→大井町駅,②本件家屋→バス→大船駅→品川駅→大井町駅,③本件家屋→バス→金沢八景駅→京浜急行→青物横町駅)いずれの方法を選択するか引越と同時には確定しがたく,昭和57年1月20ごろ②の方法による通勤を決心したが,会社の要請により,2月1日からの変更としたものである。

(四) (エ)は認める。連絡先として本件家屋よりも高円寺北アパートの方が確実であったからである。

(五) (オ)のうち,原告名に本件家屋の電気使用契約名義がなったのが昭和57年3月21日であることは認める。それは以下の理由による。すなわち原告は昭和56年12月11日の入居時に東京電力に電話連絡し使用開始通告した。ところが,前居住者冷水は本件家屋を退去する際,近隣居住者に電気使用契約の解約と清算を依頼しており,右近隣者は,12月19日の定期検針に来た係員にその旨を告げて解約した。そのため,原告が電話をした時点では,まだ冷水の名義が残っており,原告と契約すると二重契約になってしまうので受け付けてもらえなかったのだが,原告は自己が使用契約者になっているものと思い込んでいた。以後,使用名義人不明のまま検針はされず,原告が使用していることが確認されたのは昭和57年4月になってからであった。電気使用量も4月分が急増しているが,これは,56年以降の累積使用量を示すものである。

(六) (カ)のうち,原告が本件家屋の水道使用契約者になったのが,昭和57年2月6日であることは認める。但しこれは以下の理由によるものである。すなわち,原告は,本件家屋に入居した日(昭和56年12月11日)に水道局に通知した。ところが,冷水は水道使用契約の解約・清算も近隣居住者に依頼し,その近隣居住者は定期検針に来た係員にその旨告げ,これにより冷水の水道契約が実際に解約されたのは昭和56年12月21日であった。原告が通知した時点では,まだ冷水の契約が解約されていなかったため原告の名義になり得なかったのである。その後昭和57年2月1日の定期検針の際に原告が使用していることが確認され,2月6日に新規契約の検針がなされ,4月1日に定期検針がなされたのである。

(七) (キ)のうち,原告とモービル石油との平戸町住宅の賃貸借契約書に被告主張の特約事項が記載されていることは認める。但し,原告がモービル石油との賃貸借契約を締結したのは昭和57年2月14日である。契約書の日付けが昭和57年1月付けとなっているのたは,家賃の支払を計算の便宜上2月分からめに日付けを遡らせて記載しただけである。とする従って,真実,契約を締結した2月14既に原告は本件資産の売却を決意しており,日には本件資産を明け渡した場合,他に家具等の荷物を保管するのに適当な場所がなく,このような特約をしたものである。

(八) (ク)の事実は認める。

6  被告の主張2については争う。

五  原告の原論

1  原告の住居移転の経緯

(一) 原告は昭和45年ころまでは,東京都品川区二葉1丁目4番6-303号(以下「二葉住宅」という。)に妻美佐子及び長男昌明とともに居住していたが,妻との折り合いが悪くなったため妻と別居し,本件家屋に転居した。

(二) その後原告は昭和48年6月勤務先の日本ペイント東京事業所から愛知県半田市内所在の関連会社に出向することを命じられ,単身赴任した。その際,本件家屋を冷水に賃貸した。

(三) 原告は昭和50年6月再び日本ペイント東京事業所勤務となったが,本件家屋には賃借人がおり,また依然として妻との折り合いが悪かったため別居を続けることにし,東京都杉並区高円寺北4丁目20番5号小川方の高円寺北アパートに居住した。

(四) 原告は昭和54年6月ころ,平戸町住宅を取得し,同年11月ころより右住宅に居住した。

(五) 原告は昭和56年3月ころ,日本住宅公団から平戸町住宅の売却を条件に柏市土地を購入し,右条件を履行するため有楽土地に平戸町住宅の売買仲介を依頼した。

(六) 昭和56年11月15日冷水の都合により,本件家屋の賃貸借契約が解約されたので,原告は平戸町住宅の売却を促進するため空室にしたほうがよいと考え,本件家屋へ居住することとした。そして本件家屋を修理する期間,一時高円寺北アパートに身を寄せた後(昭和56年11月27日~同年12月10日),昭和56年12月11日より本件家屋に居住した。

(七) 原告は昭和57年2月ころになって,本件家屋が狭く老朽化もすすんでいること,本件家屋の賃料収入がなくなった分平戸町住宅及び柏市の土地のローンの支払いのため生計が苦しいこと,空室にしたにもかかわらず平戸町住宅の売却がうまくいかないこと等を思い悩み,その結果平戸町住宅は賃貸すること,そのかわりに本件資産を売却し,その資金で柏市の土地に家屋を新築することを決心した。

(八) 原告は右決心をしたが,譲渡代金に税金がかかれば譲渡代金を建築資金にあてることができなくなることを心配し,念のため2月6日に東京国税局の税務相談室に相談にいったところ,措置法35条の適用に支障がないとの回答を得た。そこで原告は本件資産の譲渡に踏み切り,翌7日有楽土地に本件資産の売却の仲介を依頼したのである。

以上のとおりであって,原告の生活の本拠は当時本件家屋にしかありえず(妻の居住する場所は他に存在しているが,夫婦関係の調整がつかず,別居を続けている状態である),また,本件家屋に居住していた期間が短期間であるのは全く偶然の事情であって本件資産の譲渡につき措置法35条の適用を受けるため一時的に本件家屋に居住しようと企図したものではない。

2  本件家屋に居住していた事実について

(一) 住民票の異動

原告は左表のとおり,住居に異動が生じた都度,住民票の異動を届出ている(但し,原告の高校入試の際,両親別居中ともいえず,昭和54年12月11日から昭和55年2月4日までの間,住民票上の住所だけを二葉住宅にしている。)が,昭和56年12月11日から,翌57年6月21日まで原告の住民票上の住所は本件家屋の所在地になっている。

住所を定めた日

住所

昭和50年 9月27日

東京都杉並区高円寺北4丁目20番5号 小川方

同  54年11月30日

横浜市戸塚区平戸町484番地41

同  56年11月27日

東京都杉並区高円寺北4丁目20番5号 小川方

同  56年12月11日

横浜市戸塚区上郷町1901番地の2

同  57年 6月22日

東京都杉並区高円寺北4丁目20番5号 小川方

同  57年11月 7日

柏市松葉町6丁目34番地の1

(二) 定期乗車券の購入

原告は本件家屋から勤務先である日本ペイント東京事業所に通勤するため,国電品川―戸塚間の定期乗車券(期間自昭和56年12月1日至翌57年5月31日,発行昭和56年11月17日蒲田駅)を購入している。

(三) 家財道具の存在

原告は,本件家屋での生活をするために布団,応接セット,テレビ,ラジオ,テープレコーダー,冷蔵庫,掃除器,コタツ,電気毛布,その他家財道具類を持っていた。このことは有楽土地の社員が本件家屋を見分した際に目撃していることである。

(四) 近隣の人の証言

本件家屋の近隣居住者である庄司武治及び庄司龍男及び草薙晋は原告が昭和57年7月ころまで,本件家屋に居住していたことを供述している。

(五) 自治会への加入

原告は,本件家屋のある上郷団地自治会に加入しており,同自治会の名簿にも原告名が記載されている。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1について

(一) (一)のうち,原告が二葉町住宅に妻美佐子及び長男昌明とともに居住していたことは認め,その余は知らない。

(二) (二)は認める。

(三) (三)のうち,原告が昭和50年6月に再び日本ペイント東京事業所勤務となったこと,及びその当時本件家屋に賃借人が居住していたことは,それぞれ認め,その余は知らない。

(四) (四)のうち,原告が昭和54年6月ころ平戸町住宅を取得したことは認め,その余は知らない。

(五) (五)は認める。

(六) (六)のうち,原告と冷水との本件家屋に係る賃貸借契約が解除されたことは認めるが,原告が昭和56年12月11日から本件家屋に居住したことは否認し,その余は知らない。

(七) (七)は知らない。

(八) (八)のうち,原告が昭和57年2月7日有楽土地に本件資産の売却の仲介を依頼したことは認め,その余は知らない。

2  原告の反論2について

(一) (一)のうち住民票上の住所の異動が原告主張のとおりであること及び昭和56年12月11日から翌57年6月21日まで原告の住民票上の住所地が本件家屋の所在地となっていることはそれぞれ認め,その余は知らない。

(二) (二)は否認する。但し,原告が国電品川―戸塚間の定期乗車券を購入している事実は認める。

(三) (三)のうち有楽土地の社員が本件家屋を見分した際に布団,応接セット,テレビ,冷蔵庫を目撃したことは認め,その余は否認ないし争う。

(四) (四)は知らない。

(五) (五)は認める。

第三証拠

記録中の証拠関係目録のとおり。

理由

一  請求原因1ないし5及び6の(一)の事実は当事者間に争いがない。

そこで以下被告の主張1の(一)(本件更正処分の根拠)及び(二)(本件更正処分の適法性)並びに同2(本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性)についての判断に先立ち,まず,同1の(三)(居住用財産の譲渡所得の特別控除)及び原告の反論について検討する。

二1  措置法35条1項は,居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算にあたり,一定額の特別控除を認めるものであるが,これは居住用財産を譲渡した場合には譲渡者は再び居住用代替資産を取得する蓋然性が高いこと,通常の家屋であれば特別控除額の範囲内で取得できるであろうとの配慮から,居住用資産の譲渡者が所得税の負担なくして普通程度の居住用代替資産を取得することを可能にする趣旨に出たものである。また,措置法35条1項が特別控除について連年の適用を認めず,3年間に1度の適用を認めたにとどまることに鑑みると,同条の適用をうけるためには真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の拠点としていたことを要すると解すべきであり,居住期間が短く,臨時的仮住いとしての居住と認められる場合には,同条の適用をうけないと解すべきである。そして右判定にあたっては,住居移転の経緯,居住の期間及び居住の態様について総合考慮してこれを決すべきである。

2  被告はまず,原告において本件家屋を昭和47年10月から譲渡の日の直前である昭和56年11月までの間の約9年にもわたる長期間賃貸していた事実をとりあげこの一事をもってしても本件資産が居住の用に供したものでないことは明らかであるとしているが,前述したように,居住の用に供していたかどうかは,居住の期間だけでなく,その態様等から総合判断されるべきものであるから,右被告の主張は失当である。

3  住居移転の経緯について

(一)  平戸町住宅売却依頼まで

被告主張の1(三)(3)の(ア)ないし(エ)の各事実,原告反論の1の(二)及び(五)の各事実は当事者間に争いがない。この事実に成立に争いのない甲第5号証及び原告本人尋問の結果を併せると左の事実が認められる。

原告は昭和45年ころまではその妻美佐子及び長男昌明とともに二葉町住宅に居住していたが,妻との折り合いが悪くなり,妻と別居し,本件家屋に転居した。その後,原告は昭和47,8年ころ勤務先の日本ペイント東京事業所から愛知県半田市内所在の関連会社に出向を命じられ単身赴任したが,その際本件家屋を冷水に賃貸した。原告は昭和50年6月再び日本ペイント東京事業所勤務となったが,本件家屋には賃借人がおり,また依然として妻との折り合いが悪かったため,別居を続けることにし,高円寺北アパートに居住した。そして,原告は昭和54年6月ころ,平戸町住宅を購入し,同年11月ころより右住宅に居住し,さらに昭和56年3月30日,日本住宅公団から柏市土地を取得した。そこで原告は右住宅購入ローンの支払のため平戸町住宅を売却しようと企図し,同年4月ころ有楽土地に右売買の仲介を依頼し,これを受けて同社は売却の広告を出したが原告の売却希望価額が高額であったこと等もあってなかなか買手がつかなかった。

(二)  原告が有楽土地に本件資産の売却の相談を持ちかけた時期

証人守屋和夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第7号証の1及び,同証言によりいずれも原本の存在と真正な成立を認められる乙第7号証の2,3及び5によれば,原告は昭和56年秋ころから本件資産の売却の相談のためにたびたび有楽土地横浜支店に行っていたこと,及び同支店の古川茂がその応接にあたっていたことが認められる。これに対し,原告本人は本件資産の売却の相談は昭和57年2月7日になって初めて有楽土地に持ちこんだものであると供述しているが,前記乙第7号証の1及び原本の存在と成立につき争いのない乙第6号証の1によれば,有楽土地では一般には客から売買仲介の専任委任の依頼を受けた場合,物件の価額を査定し,売却委任金額等の折衝があり,それらが決まったところで委任状を作成するため,依頼を受けてから委任状作成まで約一週間かかること,しかし原告の場合には専任委任を受けたその日のうちに直ちに委任状が作成されていることが認められるのであり,このことからすると原告が売却の相談を持ちこんだのは右の2月7日よりもかなり前であることが認められるのであって右の原告の供述は信用できない。

(三)  昭和56年11月15日原告と冷水との間の本件家屋の賃貸借契約が解約されたことは当事者間に争いがない。

(四)  平戸町住宅につきモービル石油と賃貸借契約を締結した時期

証人守屋和夫の証言によって原本の存在と真正な成立が認められる乙第14号証によれば,モービル石油の社員である谷口浩一郎が昭和57年1月18日に会社宛てに本件資産の借上社宅の申請をしていること,右申請が同月26日に会社によって承認されていることが認められ,また原告本人の供述(但し左の認定に反する部分を除く。)によれば右谷口浩一郎は,同月28日に原告の預金口座に敷金及び昭和57年2月分の家賃についてその振り込みをなしていることが認められるのであり,これらの事実及び原本の存在と成立につき争いのない乙第13号証から考えると,少なくても昭和57年1月26日以前には,原告とモービル石油間で平戸町住宅の賃貸借契約が締結され,敷金,権利金,家賃の具体的取り決めがなされていたと推認しうる。これに対し原告本人は,原告としては当時平戸町住宅を賃貸するのをやめて,柏市土地を公団に返そうと思っていたところ,モービル石油の方から一方的に無理矢理に契約を押しつけられたものであって,原告はやむなく2月14日にモービル石油と平戸町住宅について賃貸借契約を締結し,前記乙第13号証の契約書を作成したものであり,同契約書の日付けが1月となっているのは,家賃を2月分からとするための便宜にすぎない旨供述しているが,原告本人も認めているように,昭和57年1月当時,原告は柏市土地のローンの支払いに追われており,その支払いにあてるために平戸町住宅を売却するか賃貸したいと考えていたことが認められるのであり,モービル石油との賃貸借契約は原告の意にかないこそすれ,原告が一方的に押し付けられたものとみることはできないし,また,前記のように昭和57年1月28日に谷口浩一郎の方から敷金と家賃が原告の銀行口座に振り込まれていることを併せ考慮すると先の原告本人の供述部分は信用できない。

(五)  税務相談の結果について

原告本人尋問の結果によれば,原告は昭和57年2月6日に東京国税局の税務相談室に本件資産の譲渡に伴う税金のことを相談に行ったことが認められる。原告は,税務相談の際,担当係官から本件資産の譲渡が措置法35条1項の特別控除を受ける上で問題がないと言われたと主張し,原告本人の供述にもそれに沿う部分もあるが,さらに右本人尋問の結果によれば,ガス,水道,電気は基本料金だけ払っていただけではだめで,生活に必要な使用量が必要である旨注意されたことが認められるのであり,結局税務相談の結果は右の注意も含むもので,単純に問題がないというものではないことになる。

(六)  原告が昭和57年2月7日に有楽土地に対して本件資産の売却の依頼を申込んだことについては当事者間に争いがない。

(七)  原告は昭和48年6月ごろから昭和50年6月ころまでの間,愛知県半田市所在の原告の勤務先の日本ペイントの関連会社に出向し,その間の昭和49年7月同県知多市つつじが丘4-16-5に土地建物を購入し,翌50年1月まで右建物に居住したが,帰京後の昭和53年6月ころこれを28,000,000円で売却し,これによって約10,000,000余円の譲渡所得を得たこと,原告は右譲渡所得について昭和53年分確定申告に当たり,措置法35条の規定を適用し,10,000,000余円の特別控除の適用を受けたことについては当事者間に争いがない。右の事実に前記のように昭和57年2月6日に原告が国税局にわざわざ措置法の適用の有無を相談しにいったことを併せ考えると,原告は昭和56年当時少なくとも本件家屋を醸渡すれば措置法35条1項の特別控除が受けられる可能性のあるということは認識していたものと認められる。

4  原告の本件家屋についての居住の態様等(昭和56年12月から原告が本件家屋に居住していたことの有無)

(一)  被告の主張事実(被告の主張1(三)(4))について

(1) 被告主張の(ア)の事実のうち,原告が昭和57年分の「給与所得者の扶養控除申告書」を提出していること及び同申告書に記載された住所地が平戸町住宅のそれであったことは当事者間に争いがない。しかしながら右事実によっても同申告書を原告が昭和57年1月1日から同月24日までの間に提出したことを推認するに足りない。なぜなら,所得税法194条1項は,扶養控除申請につき「国内において給与等の支払を受ける居住者は,その給与等の支払者から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに,次に掲げる事項を記載した申告書を,当該給与等の支払者を経由して,その給与等に係る所得税の第17条の規定による納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。」と定めているが,右規定によれば,居住者が直接,税務署長宛に申告書を提出するのではなく,給与支払者を経由することになっており,給与支払者から税務署長に提出する期限が定められているのであって,必ずしも居住者が給与支払者に提出する期限が定められているものではないからである。

(2) 被告主張の(イ)の事実のうち,原告とモービル石油との平戸町住宅についての賃貸借契約書の賃貸人住所欄に高円寺北アパートの住所が記載されてあることについては当事者間に争いがない。また賃貸借契約が成立したのが昭和57年1月26日以前であることは前述したとおりである。そうであるならば,特に契約書の作成を後日にするという合意のないかぎり契約締結と同時あるいはそれに近接した時期に作成されたと考えるのが合理的であり,前記乙第14号証によれば,谷口浩一郎がモービル石油に提出した申請書の内容が相当具体的詳細であるこのことから契約書添付のうえ借上社宅申請がされたと推認できることを併せ考えると契約書も1月26日以前には作成されていたと推認しうる。

原告本人は,右契約書の住所欄に高円寺北アパートの住所を書いた理由として当時原告には栃木への転勤の噂があったが,平戸町住宅は強引に賃貸させられたことから本件家屋を持っていることが賃借人に知れると再度帰京した際,なかなか明渡しの折衝がむずかしくなると考えたからであると供述しているが,栃木への転勤の噂のあったことも疑わしいし,また前述のとおり,平戸町住宅が強引に賃貸させられたということは,必ずしも言えないのであって,右供述はにわかに措信しがたい。

以上のように被告主張(イ)の事実が認められる。

(3) 被告主張の(ウ)の事実は当事者間に争いがない。これに対して,原告本人は,昭和56年12月11日から本件家屋に居住したが,会社までの通勤方法として3通りあってどれが便利か決しかねていたところ,ようやく翌年1月20日ころ最終的に決定したこと,及び,会社による一括購入の便宜のため,2月1日からにしてもらった旨供述しているが,転居してから1か月以上も通勤方法を決めかねていたということは信用しがたい。

(4) 被告主張の(エ)の事実については当事者間に争いがない。これに対し,連絡先として,高円寺北アパートの電話番号を記載したのは,そちらの方が本件家屋よりも確実に連絡がとれるからであるという弁解もあるが,十分に首肯させるに足りない。

(5) 被告主張の(オ)の事実については当事者間に争いがない。これに対し,原告本人は,本件家屋に転居した日である昭和56年12月11日に東京電力に使用開始の電話連絡をしたが,前居住者の冷水がまだ解約手続をしていなかったので二重契約はできないということで,受けつけてもらえず,その後もそのままになってしまった旨供述するが,成立に争いのない乙第22号証の1によれば,昭和56年12月11日は原告は1日中会社に出勤していることが認められること,仮に,東京電力で新たな使用開始の連絡を受けたとすれば,前の居住者との精算とは別にこれを受付けると思われることから考えると原告本人の右供述は措信しがたい。

(6) 被告主張(カ)のように,原告が本件家屋の水道の使用契約者となった時期が昭和57年2月6日であることは当事者間に争いがない。原告本人は,昭和56年12月中旬に本件家屋に転居したときに,水道局に使用開始の電話連絡をしたが,まだ前居住者の冷水から水道局に対し,解約連絡がなされていなかったため,原告の名義になりえず,昭和57年2月2日になって初めて,原告が水道を使っていることが水道局に判明したので,それ以降原告名義として取り扱われるようになった旨供述している。しかし,右(5)と同様に,原告が昭和56年12月11日に本件家屋に転居して同日水道局に連絡したとは認められないので,原告本人の右供述は措信しがたい。

(7) 被告主張の(キ)のうち,平戸町住宅の賃貸借契約書に被告主張の特約事項が記されていることは当事者間に争いがない。また当該契約書が昭和57年1月26日以前には作成されていたこと及び原告が本件家屋の売却を有楽土地に依頼したのが同年2月7日であることが認定できることについては前記のとおりである。そうだとすると,右特約事項は,本件家屋の売却を正式に依頼する前に設けられたものであることが認められる。従って,もし原告が昭和56年12月から本件家屋に居住していたのならば,右特約事項を設ける必要は全くないといえる。

(8) 被告主張の(ク)の事実は当事者間に争いがない。

(9) 以上(2)ないし(8)の事実を総合すれば,原告は昭和57年1月の段階でまだ本件家屋に居住していず,同年2月初旬に入居したものであることが認められる。

(二)  原告の反論事実(原告の反論)について

(1) 原告の反論(一)(住民票の異動)については,住民票上の住所が原告の主張のとおりであること,及び昭和56年12月11日から翌年6月21日までの間,原告の住民票上の住所地が本件家屋の所在地となっていたことは当事者間に争いがない。しかしながら,昭和56年12月11日の住民票の異動が現実の住居の異動に対応しているかについては,これを認めるに足りる証拠がない。

(2) 原告の反論(二)(定期乗車券の購入)については,原告が原告主張の定期乗車券を購入した事実は当事者間に争いがない。いずれも成立に争いのない甲第1号証の1ないし4によれば,原告は平戸町住宅に居住していた時においても品川から戸塚までの定期乗車券を購入していることが認められる。そして成立に争いのない甲第1号証の9によれば,右の各定期乗車券と同様に品川―戸塚間の定期乗車券で昭和56年12月1日からの期間のもの(原告主張の定期乗車券)が購入されていることが認められるのであって,この事実からすると原告主張の定期乗車券は平戸町住宅から通勤するために購入されたものとも考えられるのであり,右定期乗車券が存在することの一事をもって,原告が昭和56年12月から本件家屋に居住していたことを推認することはできない。

(3) 原告の反論(三)(家財道具の存在)のうち,有楽土地の社員が本件家屋を見分した際,布団,応接セット,テレビ,冷蔵庫を目撃したことについては当事者間に争いがない。しかしながら,ラジオ,テープレコーダー,電気毛布その他世帯道具一式については,原告本人はその存在を肯定する旨供述しているが,証人守屋和夫の証言によって原本の存在と真正な成立を認められる乙第7号証の5及びその見取図によれば,有楽土地の社員が見分の際右ラジオ等,世帯道具一式の存在を現認しなかったことが認められるのであって,先の原告本人の供述はにわかに措信しがたい。結局,ラジオその他の世帯道具一式が存在したことを立証するに足りる証拠がない。

(4) 甲第2号証,第6号証には,原告が昭和56年12月暮から翌年6・7月ころまで本件家屋に居住していた趣旨の記載がある。しかし,作成の経緯も明らかでない証明書に過ぎず,措信することができない。

(5) 原告の反論(五)の事実(自治会への加入)は当事者間に争いがない。しかし,原告本人の供述によれば,自治会費を納入したのは昭和57年2月分からであることが認められる。

5  右4で検討した住居移転の経緯,居住期間,居住態様によれば左の認定が可能となる。

すなわち,原告は昭和57年1月26日以前に平戸町住宅についてモービル石油との間で借上社宅用として賃貸借契約を締結し,同年2月6日に東京国税局の税務相談をし,同月7日に本件家屋の売却仲介を有楽土地に正式に依頼し,この頃である同年2月初旬に本件家屋に入居したこと,原告は,本件家屋の譲渡にあたって措置法35条1項の特別控除の恩恵を受ける目的で本件家屋に居住したこと,右居住直後である昭和57年3月21日には,密田良弘ほか1名に対し本件資産を売却譲渡していること,以上の事実が推認しうる。そうだとすると,原告の本件資産への居住は,もっぱら措置法35条1項の適用を受ける目的で居住の用に供しているかのような外形を整えるためになされた一時的なものにすぎず,本件家屋は,到底原告自身がその生活の本拠としていたものとはいえないのであって,措置法35条1項の特別控除の規定を適用すべきものとはいえない。

三  被告主張1(一)(本件更正処分の根拠)のうち(1)については弁論の全趣旨によれば,原告の昭和57年分の総所得金額が3,352,275円であることが認められる。

同(2)(分離課税の長期譲渡所得金額)のうち(ア)(収入金額)については当事者間に争いがない。同(イ)(取得費)のうち,(a)(本件土地の取得費)については,いずれも成立に争いのない乙第2号証及び同第4号証並びに弁論の全趣旨によれば,昭和43年7月24日原告が本件土地を含む土地を2,254,700円で購入し,その購入代金から面積の割合に応じて算定した額(本件土地の購入代金)が1,263,043円であることが認められる。同(b)(本件家屋の取得費)のうち,①(建築費)が4,000,000円であることは当事者間に争いがない。また,弁論の全趣旨によれば建物の減価の額が,別紙1の計算のとおり,2,017,200円であることが認められる。従って本件家屋の建築費から減価額を控除した1,982,800円が本件家屋の取得費であると認められる。

同(ウ)(本件資産の譲渡費用)すなわち,原告が本件資産を密田良弘ほか1名に譲渡するにあたり,有楽土地に支払った仲介手数料が827,000円であることは当事者間に争いがない。

同(エ)の分離長期譲渡所得の金額の計算上控除される特別控除額は,措置法31条3項の規定によれば,1,000,000円である。

以上の(ア)ないし(エ)によれば,原告の昭和57年分の分離課税の長期譲渡所得金額は19,827,157円であることが認められる。

四  右三の事実及び前記説示のとおり本件資産の譲渡には措置法35条1項の特別控除の適用がないことからすると,被告が本件更正処分において総所得金額を3,352,275円,分離長期譲渡所得の金額を19,800,757円(前記七で算定した金額の範囲内である。)と認定し,納付すべき税額を3,932,900円と定めたことは,適法であるということができる。

さらに,以上の事実によれば,被告が国税通則法65条1項に基づき,本件更正処分により新たに納付すべきことになった所得税額3,826,900円(ただし,同法118条3項の規定により,右金額の10,000円未満の端数を切捨てた金額3,820,000円。)に100分の5の割合を乗じて計算した金額に相当する191,000円の過少申告加算税を賦課した処分は適法である。

五  よって,原告の本訴請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井眞治 裁判官 手島徹 裁判官 澤野芳夫)

〈以下省略〉

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